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接着は大昔から

接着とは、物と物とを接着剤でつけることをいいます。接着剤として最も古いのはアスファルトといわれています。紀元前2,700年ごろつくられたといわれている「ウルのスタンダート」がイラクのウルから出土しています。これは貝殻や宝石をアスファルトで建物に接着したものでした。もともと中東地方のアスファルト坑は歴史が古いようです。 日本でも古くからアスファルトが接着に使われ、縄文時代の狩猟用の矢じりは先端に尖った石が棒の先に接着されています。秋田地方にアスファルトが産出し、秋田を中心にアスファルトが付着した矢じりや土器が出土されています。この用途は世界各地で石器時代以降に使われていたようです。
膠(にかわ)は外国では紀元前から使われ、中国では孫子や列子の書に「膠漆」の語があります。エジプトでは紀元前1,300年ごろと見られるレクミラという貴族の墓の内部に木工職人の図が画かれており、鍋で膠を融かし、板に塗っている様子があります。日本へは奈良時代に中国から伝わったとされていますが、作り方は墨とともに平安時代になって定着したと伝えられています。米糊(のり)は日本で最も一般的な接着剤として今日に伝わり、和紙の技術が生まれた奈良時代以降、紙には米糊、小麦糊というのが常識になりました。日本で接着剤が商業ベースにのったのは江戸時代からで、糊屋、膠屋が大都市に現れました。
明治になって欧米の技術が入ってくると、ゴム糊、アラビヤゴムが日常生活に入って来ました。その後、フェノール樹脂、ユリア樹脂、ビニル樹脂が欧米で発明され、接着剤として日本に紹介されました。しかし、現在のように合成接着剤が発展したのは第2次世界大戦以降のことで、ことに石油化学工業の拡がりと、接着剤を必要とする産業と相まって著しく進歩しました。

接着剤といまの私たち

私たちの身のまわりのものから、科学技術の最先端の分野まで、接着はなくてはならない技術になっいます。まさに切手貼りからスペースシャトルまで重要なのが接着技術です。そして、どこでもいつでも表にでないで縁の下の力持ちが接着剤です。たとえば、包装材料として使っている段ボールも、ビール瓶のラベルもみんな接着剤が使われています。自動車は1台で100kg近い接着剤が使われていますし、新幹線はなんとドラム缶2本分の400kgの接着剤が窓ガラスと車体の接着や床のビニル貼りなどに使われています。さらに人工衛星の耐熱タイルや1万個近い太陽電池が接着剤で接着されています。
私たちの身近にもいろいろな接着剤があります。代表的なものが瞬間接着剤です。瞬間接着剤は、1955年アメリカのイーストマン・コダック社で発明され、1961年国産されました。最大の特長は10秒ぐらいで強力に接着することです。しかも、金属、陶器、ゴム、木材など大概ものものは接着しますが、プラスチックでもポリエチレン以外は接着します。最近ではプライマーを先に塗ることでポリエチレンも接着するようになりました。さらに驚くことに医療分野でも歯科や手術の縫合にも使っています。瞬間的に接着するのは周りの水分の作用で固まるからです。つぎに、なじみが深いのが木工用ボンド(現コニシ、旧小西儀助商店の商品名)でしょう。これは酢酸ビニル樹脂エマルジョンからできた接着剤です。牛乳と同じように、酢酸ビニル樹脂が水に細かく分散していて、水が蒸発すると接着します。家具の修理や日曜大工など紙、木材の接着に使われています。 終戦前からあったのがセメダイン(現セメダイン、旧今村化学研究所の商品名)です。
これは「セメダインC」のブランドで日本初の合成接着剤で、「なんでも良くつくセメダイン」のキャッチフレーズで一世風靡した家庭用接着剤です。透明、速乾、多用途という特長があり、現在でも画期的な商品といえるでしょう。国民学校時代(戦時中の小学校)に模型飛行機を作るのに使ったことを思い出します。強力な接着剤といえば、エポキシ系接着剤になります。1960年代のはじめ、「アラルダイド」という商品名で売り出されました。金属板と金属板をたった1インチ平方の接着面積で1トン近い乗用車をクレーンで持ち上げている宣伝用の写真を見たときは驚きました。今や自動車、電子・電気、土木・建築に広く使われています。家庭用にもチューブ入りものものが売られています。金属やコンクリートなどを接着するのには便利です。

最も強い接着剤は

接着強さによる分類方法では、強い順に構造用接着剤、準構造用接着剤、非構造用接着剤に分けられます。一方、国際標準化機構であるISOの用語定義では、「長時間破壊することなく、その最大破壊荷重に比較的近い応力を加えることのできる信頼性の保証された接着」を「構造接着」と呼び、「信頼性の保証された接着剤」を構造用接着剤と呼んでいます。これからすると強い接着、強い接着剤は構造用接着剤と呼ばれているものとなります。構造用接着剤の具体的な評価にはアメリカ連邦規格MMM-A-132というものが採用され、航空機構造用接着剤の評価方法になっています。この規格では、接着強さと耐熱度の組合せでタイプ1~タイプ4まで分類されています。ということで、強い接着剤は航空機構造用接着剤の開発とともに進んでいるといえます。最近では、いろいろなエラストマーで変性したエポキシ樹脂が主流となっていて、なかでもニトリルゴム変性エポキシ樹脂接着剤が1インチ幅で約30kgの剥離強さを示しています。高温に耐える接着剤では300℃で100時間耐えるポリベンツイミダゾール系接着剤とポリイミド系接着剤がチャンピオンデータとして報告されています。

剥がせる接着剤

強く接着していて、必要なときに簡単に剥がせる接着剤が欲しいという声が出できてから久しくなります。昔は出来ない相談事でありましたが、今では現実になっています。これらは解体性接着剤と呼ばれ、次世代の接着剤の1つと考えられています。世の中が環境問題に対応していくために製品の解体やリサイクルのニーズが高まったことが開発の引き金になったと思います。現在、解体性接着剤の基本的な考え方は熱か電気を利用して剥がすことです。熱を利用して剥がす接着剤には昔からあるホットメルト接着剤があります。これは接着剤を融かして接着するものですから、当然熱で接着したところを温めれば簡単に剥がれます。しかし、この接着剤はあまり高い温度のところでは使えません。最近は、接着剤のなかに熱膨張マイクロカプセルや化学発泡剤を入れておいて、熱で発泡させて剥がす接着剤が実用化されています。これであれば、強い接着ができるエポキシ樹脂系接着剤にも使えます。また、膨張性黒鉛や水酸化アルミニウムのような熱によって化学的に活性になる物質を入れることも考えられています。電気を利用して剥がす接着剤の代表的なものは、アメリカ製エレクトリリースと呼ばれる接着剤で、日本でも発売されています。直流電圧を印加して接着しているところを剥がすもので、金属接着には適用できます。最近では、航空宇宙機器の分離に検討されているようです。

接着剤はどのくらいつくられているか

最後に接着剤がどのくらいつくられているか見てみましょう。日本接着工業会の統計によれば、わが国の接着剤の2010年度生産量は823,628トン、出荷量771,476トンで、それぞれ前年比102.7%、97.9%と経済状況によって出荷量が前年を割っている状況です。需要面では合板・木工が出荷量全体の32%、以下建築・土木17.8%、包装16.6%、自動車・輸送7.6%、電気6.2%、繊維6.6% 、靴・革・ゴム製品0.3%、家庭用0.7%、その他10%となっています。このなかで自動車・輸送と電気だけがそれぞれ前年比110.6%、139.3%と増えています。

接着コンサルタント 地畑健吉